A Translator's Rumblings

読書日記もあり

粗悪な英辞郎をついに削除

英辞郎を使い始めて1年少々が過ぎるが、自分が使っている辞書の中でのヒット数は抜群なものの、首をかしげるような訳語をたびたび(毎日です)見かけるので、Logophileで使用している15種類ほどの英和/和英辞書の検索結果表示順位では最下位近くに設定している。怪しいエントリーを目にする度に書き留めてどこかで公表してやろうと思うのだが、そんな暇はない。

 

今日は倫理規範や行動規範に関する文書を訳していて、違反行為の調査に関連して material matters という表現が出てきた。material が形容詞であることはすぐにピンときたが、一応チェックしておこうと思い、ヒットしないだろうとは思いつつもとりあえず2語とも入力した。すると、あったあった。

 

material matter   材料問題

 

はァ?何じゃこれは?英辞郎だからどの分野の表現なのか未指定なのは承知しているが、これはないだろう?自分は「重要案件」と訳したけれども、工学とか別の分野の用法を考えても「材料問題」はちょっとひどすぎないか?複数語のエントリーの場合、A+Bを単にAとBの別々の訳をくっつけて訳してある場合が多すぎて、辞書を引いた自分がなさけなくなることがよくある。私は本日をもって英辞郎を使わないことにした。

 

ちなみに、英辞郎の協力者募集ページには、次のような条件が記載されている。

正確かつ完璧な英和対訳データを1週間当たり700件以上(1カ月当たり2,800件以上)作成して、テキストファイルとしてメールに添付して送信できる。」

報酬は

作成したデータの1バイトにつき1.2円

つまり、上記のエントリーに対する報酬は、改行を含めて40バイトだから、48円である。

誰が監修しているのか知らないが、監修者(事業主か?)の報酬もたいしたことはないのだろう。おそらく、英辞郎の最大の魅力は収録語数の多さで、2014年12月発表のver. 143でその数は197万語と、200万語にもうすぐで届くところまで来ている。そうすると、収録語数追加が優先されがちになるのではと危惧してしまう。そのことと関連があるかどうかは別として、品質がおろそかになっていると感じるのは私だけであろうか。

 

英辞郎はプロのために編纂された辞書ではないので、一般人には語数が多いことがありがたいのかもしれない。一般人なら用途もさまざまだろうし、安価に入手できて、かつウェブ版があることは結構なことだと思う。だが、私はもう厭だ。197万語中「怪しい」エントリーが1万語しかないとしても、これほど頻繁に品質に首をかしげていると、馬鹿にされているような気分になるのだ。

 

私は古典インド学(文献学)を専攻して、言葉の意味はコンテクストによって決まるものだと長年たたき込まれた。辞書はいやになるほど何度でも参照するように指導されたが、同時に意味を辞書の記述に無理に当てはめたりするなと教えられた。だから、単に電子辞書で検索してヒットした結果を選ぶという安易な方法に依らず、時間はかかっても丁寧に訳していきたいのだ。それはプロの翻訳者なら誰でも同じだと思うが、それを支援してくれるツールであるわけでもなく、それをばかにするようなエントリーをとにかく数多く追加し、「辞書」と称して販売されている代物には頼りたくないと思う。